人間は年齢を重ねていくうちに様々な身体の変化に伴い、症状や病気を引き起こしやすくなります。
各臓器や各種機能は徐々に衰え、症状などに現れることが多いです。
そして高齢者は、成人にはみられない様々な特徴がみられます。そこで今回は、加齢に伴う身体の変化から引き起こす症状や病気、高齢者独自の特徴について説明します。
高齢者が罹りやすい病気や特徴について、参考にして頂けたらと思います。
* 特に注意しないといけないのは、同じ薬を飲んでいて同じ生活を送っていても、先週まで大丈夫だったのに、今日は薬の副作用が出ることもあります。
一日一日、体の状態が加齢によって変化しやすいということにご家族も気を付けてあげてください。
加齢に伴う身体的特徴と症状や病気
加齢に伴い、身体面の機能低下が徐々に生じます。
これは、老化現象とも言えます。
身体全体の機能的低下と、各臓器の機能的低下に対する症状や病気についてお話していきます。
身体全体の機能的低下
人間は、成長・発達期までに細胞の数が増殖し、全細胞総数が60兆個になります。
しかし、加齢と伴に細胞の数も減り続けます。各臓器も重量が減少し、萎縮するのが現状です。
成人は、身体の中の水分量が、全体の60%です。
加齢に伴い水分量が減少し、全体の50%まで減少します。そのため高齢者は、水分摂取量の低下および水分排出量の増加にて、脱水になりやすいです。
高齢者は、脱水になっても症状が現れにくので、発見が遅くなることがあります。
各臓器の機能的低下
呼吸機能 ・ 呼吸機能は、肺の弾力性の低下や前傾姿勢などの影響で、低下します。 ・ 気道の繊毛運動が減少し、分泌物を排出しにくくなります。ですから、誤嚥性肺炎を引き起こしやすいといえます。 ・ 気管支と食道には蓋の役目を持つ「弁」があります。飲食物を飲み込むと「弁」は蓋をし、飲食物が気管に入ることを防ぎます。しかし加齢と伴に、「弁」の閉まるスピードが落ちるため、気管支に飲食物が入りやすくなり、肺炎(誤嚥性肺炎)を引き起こしやすくなります。 ・ 換気をするための呼吸筋は、加齢の影響で低下します。肺の中のガス交換をしている肺胞が減少し、肺胞がまとまった形の気腫が生じます。残気量が増え、換気が不十分の状態です。この病態を肺気腫と言います。 循環機能 ・ 加齢の影響で血管が硬くなる(動脈硬化)ため、血管の抵抗性が生じ、血圧が上昇します。よって、高血圧を引き起こし、様々な病気発症の原因となります。 ・ 動脈硬化は、血栓が心臓又は脳へと移行すると、心筋梗塞や脳梗塞の発症にも関与します。 ・ 心筋繊維が増大することで、心臓の肥大が起きます。心臓の肥大は、心臓弁膜症・心筋梗塞・心不全への原因となります。 ・ 心臓自体は、ポンプ機能・心筋収縮力・心拍出量ともに機能低下がみられます。それに伴い、心不全を起こしやすくなります。 消化・吸収機能 ・ 加齢に伴い、唾液の分泌・消化液の分泌低下により、消化吸収能力機能も低下します。胃の蠕動運動が低下するので、胃もたれをしやすいです。 ・ 大腸の蠕動運動の低下に伴い、便秘を引き起こしやすいです。 ・ 消化液の分泌低下に伴い、糖質とタンパク質の多量摂取は、下痢になります。 排泄機能 ・ 膀胱の容積が減少するので、膀胱内に尿を溜めることが困難となります。少量の尿の貯留で尿意が起きるため、排尿回数も増え頻尿となります。 ・ 腎臓では、機能の低下に伴って、尿の濃縮力が低下します。夜間も尿濃縮力の低下により、排尿回数が増えます。 ・ 膀胱の弾力性が低下します。排尿後も残尿感が生じ、頻尿となります。 ・ 膀胱の充満感が鈍くなるのが著明です。成人では、膀胱が充満しなくても尿意を感じるが、高齢者は充満してから尿意を感じます。よって、尿意が起きると我慢できないことで、漏らすこと(尿失禁)があります。 ・ 水分摂取不足、膀胱や尿道の尿流減少により、尿路感染症を(尿道炎・膀胱炎・腎盂腎炎など)を起こしやすいです。 ・ 男性は、加齢に伴うホルモンの変化から、前立腺肥大症を引き起こします。 ・ 前立腺肥大症や膀胱腫瘍、薬剤の副作用により、排尿困難が生じることもあります。 運動機能【 骨 】
骨組織を形成するカルシウムなどが減少します。骨密度の低下から、骨粗鬆症になりやすいです。骨粗鬆症から骨がもろくなり、骨折しやすくなります。しりもちをつくなどの軽微な外傷で腰部圧迫骨折や大腿骨頸部骨折を引き起こすこともあります。できるだけ転倒しないように高環境を整えましょう。
【 関節 】
関節の軟骨が、硬くなったり薄くなったりと変化が生じます。そのため、関節の屈伸や可動域が狭くなります。これらを変形性関節症と言います。症状が起きやすい部位は、膝、肘、肩、足の付け根です。
【 筋肉 】
加齢とともに、筋肉量は減少します。筋肉量の低下は、転倒のリスクが高くなります。
【 視機能 】
眼の調節力、視力、色覚、瞳孔反応、光の反射などは、加齢の影響で低下します。近くの物が見えづらくなる老眼は、老化現象のひとつです。その他に、水晶体が濁ることにより、白内障が生じます。
【 聴機能 】
個人差がありますが、高齢者は難聴になる傾向があります。場合によっては、補聴器が必要です。
加齢の影響により、高音域が聞き取りづらくなります。低めの声でゆっくり耳元で話すと、高齢者は聞こえます。
【 嗅覚 】
加齢と伴に、嗅覚機能は低下します。
【 味覚 】
塩味と甘みの感覚が低下し、濃い味付けを好むようになります。(味覚障害)味覚の変化も個人差があります。
【 感覚閾値の変化 】
痛みや温度など感覚が鈍くなります。それに伴い、低温やけどや熱中症を発症しやすいです。
【 脳の変化 】
・ 脳は老化に伴い神経細胞の脱落が起こり,萎縮します。そして、認知症が起きやすくなります。 ・ 神経細胞の脱落や脳血流量の減少などから、脳の機能は全体的に低下します。 ・ 脳の血管にトラブルが生じると、脳卒中(脳出血・脳梗塞・くも膜下出血)を発症します。脳卒中は、高齢者に多く発症する病気です。 ・ 脳梗塞は、脳血管が詰まって血流障害が起きる疾患です。 ・ 脳出血は、脳の中にある小さな血管が破けるまたは切れて出血を起こします。 ・ くも膜下出血は、血管の塊(脳動脈瘤)が破ける疾患です。【 脊椎の変化 】
・ 脊椎の変化により、触覚、位置覚、振動覚などの感覚の低下が起きます。【 神経系の変化 】
・ 加齢の影響で神経の細胞数が減り、神経の伝達速度のスピード低下が起こります。よって、運動機能の低下がみられます。 ・ 段差などに躓いた時、反射的に両手が地面に付くと思います。しかし高齢者は、神経の伝達速度の低下から、段差に躓いても両手が地面に付く速度が遅いため、両手を付かずに転倒をし、地面に付いた体の部分を損傷しやすいです。転倒時に頭部に外力が加わると、硬膜下血腫を起こしやすいです。 免疫機能病気に対する抵抗力が低下するため、病気にかかりやすい特徴があります。そして、病気に対する治癒力も低下します。細菌感染症として呼吸器感染症・尿路感染症、真菌、ウイルス、MRSA感染症などの疾患に罹りやすく、敗血症に進展する可能性も高くなります。
造血機能 ・ 血液は、脊椎にある造血髄で造られます。思春期以降に、造血髄の面積が減少し始めます。70歳からは、その半分の面積になります。 ・ 加齢の影響で造血機能が低下し、貧血になりやすいです。このことを、老年性貧血とも言います。加齢に伴う各種機能の変化
高齢者は、加齢に伴い身体的な側面だけでなく、各種機能も変化が生じます。
生命を維持していくための予備力・回復力・防衛力の低下、新しい生活環境による適応力の低下がみられます。
項目ごとに、詳しくお話します。
予備力・回復力の低下
加齢に伴い、平常の生命活動を営むのに必要な予備力が低下します。
予備力の低下と一緒に、回復力も低下します。
そのため、病気に対する治癒までに時間が要する、もしくは治りにくい、治らないこともあります。
防衛力の低下
加齢に伴い、予備力と回復力とともに、防衛力も低下します。
身体自体を保護する力の低下が生じます。
適応力の低下
高齢者は、新しい環境に順応しにくくなります。
入院や転居、施設への入居などの新しい環境は、高齢者への負担が大きいです。
環境の変化にて、一時的ですが興奮状態や不眠などが起こることもあります。
このことを、不穏とも言います。
環境の変化に伴う配慮が必要です。
高齢者にみられる特徴
加齢の変化によって、成人とは異なる独自の特徴がみられます。
高齢者にみられる特徴について、表に明記しました。
高齢者は、無症状もしくは症状が分かりづらい特徴があります。
体調が悪くても、発熱が生じないこともあります。
様子の変化を感じるときは(例:急に食欲が無い・活気がないなど)異変のサインであることもあります。
同居している高齢者の異変を感じたら、かかりつけ医療機関に相談するのも良いでしょう。
まとめ
加齢に伴う身体の変化から高齢者に多い症状や病気、特徴についてお話しました。
全体的な機能の低下は、徐々に起こります。
加齢に伴う症状の出現などは、個人差がありますので、考慮して頂きたいです。
加齢に伴い様々な変化が生じますが、高齢者が生活しやすい環境を提供していく必要があると思います。
(岡野 恭子)
参考サイト
・ 高齢者の身体と疾病の特徴 日本医師会[ https://www.tokyo.med.or.jp/docs/chiiki_care_guidebook/035_072_chapter02.pdf ] ・ 老年看護学概論・老年保健
[ http://medical-friend.co.jp/pdf/sintaikei/rounen1.pdf ]